ストレスチェック制度義務化の形骸化が招く年間422万円の損失
2025.06.23

ストレスチェック制度義務化の現状と企業への影響
ストレスチェック制度義務化の最新動向
ストレスチェック制度義務化は、2015年12月の施行から約10年が経過し、大きな転換期を迎えています。
2025年5月8日に「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」が衆議院で可決・成立。
50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化される予定となりました。
現在、従業員数50人以上の事業所における実施率は84.7%に達している一方で、50人未満の事業場では32.3%にとどまっています。この大きな格差を解消するため、厚生労働省は全事業場への義務化拡大を決定したのです。
\ 面談でのメンタルケア方法を無料公開 /
形骸化する制度の衝撃的な実態
しかし、ストレスチェック制度義務化の実施率の高さとは裏腹に、深刻な問題が浮き彫りになっています。日本生産性本部の調査によると、「ストレスチェック運用の形骸化」が36.0%に達しているのです。
さらに憂慮すべきは、企業のストレスチェック制度の実施目的の91.4%が「法制義務化対応」であり、本来の目的である「セルフケアによる不調者発生予防」や「職場環境改善」は二の次になっている現状です。
富士通株式会社の事例では、2007年にストレスチェックシステムを導入したものの、実施年数を重ねると形骸化し、PDCAとしての機能が全くなされず、実施することが目的になっていたと報告されています。
従業員エンゲージメント低下の深刻さ
ストレスチェック制度義務化の形骸化は、従業員のエンゲージメント低下に直結しています。
形式的な実施では、従業員は「どうせ何も変わらない」という諦めの気持ちを抱き、参加意欲が低下します。
実際、多くの企業では以下のような問題が発生しています。
✖ ストレスチェックの回答率の低下
✖ 高ストレス者の面接指導申出率の低迷
✖ 集団分析結果の未活用
✖ 職場環境改善への取り組み不足
企業への甚大な経済的損失
ストレスチェック制度義務化の形骸化がもたらす経済的損失は、想像以上に深刻です。
内閣府の調査によると、企業で精神疾患の休職者を1名出したときの経済的損失は422万円(※1)に上ります。さらに、マクロ的な視点では
・精神疾患のために生じる医療費や労働損失等の社会的損失
⇒ 11兆3,756億円(順天堂大学等)※2
・自殺とうつ病による社会的損失
⇒ 2兆7,000億円(2009年、厚生労働省)※3
これらの数字は、メンタルヘルス対策の不備が国家経済にも大きな影響を与えていることを示しています。
※1)年収約600万円の男性社員1人が6ヶ月休職した場合に周囲の社員の残業代増加なども含めた計算
※2)順天堂大学などの研究機関による2011年の推計
※3)厚生労働省が国立社会保障・人口問題研究所に委託し行った推計
離職率への深刻な影響
最も憂慮すべきは、メンタルヘルス不調による離職の増加です。労働政策研究・研修機構の調査によると、メンタルヘルス不調が原因で休職し、そのまま離職した率は40%を超えるという衝撃的な結果が出ています。また、厚生労働省の調査によると、メンタルヘルス不調による退職者がいた事業所の割合は増加傾向にあり以下のように推移しています。
離職による損失は、単なる採用コストだけではありません。蓄積された知識・ノウハウの喪失、残された従業員への業務負担増加、業務が円滑に進まなかったり、残業が増えることで組織の士気も低下します。また、組織力の低下は最終的に顧客との関係性の損失にまで及ぶ可能性があります。
これらを考慮すると、実際の損失額は422万円をはるかに超える可能性があります。
形骸化を防ぎ、企業利益を守る実践的対策
効果的なストレスチェック活用法
ストレスチェック制度義務化を形骸化させず、真に効果的な制度とするためには、まず実施方法の見直しが必要です。厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」の57問版ストレスチェックは、従業員個々のメンタルヘルス対策のみが焦点となるため、80問版のストレスチェックを実施することで、課題や改善点を見出すことができ、職場環境改善が進むとされています。
厚生労働省が提供する「職業性ストレス簡易調査票」80問版では、以下の項目が追加されます。
✅仕事の負担
✅働きがい
✅ハラスメント
✅職場の一体感
✅キャリア形成
これらの情報により、より包括的な職場環境の評価が可能となります。
集団分析の重要性と活用方法
ストレスチェックの集団分析を職場、各部署などの単位で行うことで、高ストレスの従業員が多い職場を特定できます。しかし、多くの企業では集団分析結果が十分に活用されていません。
参加型職場環境改善の実践
職場環境改善のうち、最も効果があるとされている「参加型職場環境改善」は、
従業員自身が主体的に職場環境の改善に取り組む手法です。
参加型職場環境改善の特徴
✅ 従業員の当事者意識の醸成
✅ 現場の実情に即した改善策の立案
✅ 実施可能性の高い対策の選定
✅ 継続的な改善活動の定着
経営者・管理監督者・従業員それぞれの役割
ストレスチェック制度義務化を成功させるには、各階層での適切な役割分担が不可欠です。
職場環境改善の具体的な進め方
厚生労働省の「いきいき職場づくりのための手引き」では、職場環境改善を4つの領域で捉えることを推奨しています。
A. 仕事のすすめ方
・作業計画への参加と情報共有
・労働時間の適正化
・業務配分の見直し
B. 作業場環境
・物理的環境の改善(温度、照明、騒音)
・休憩スペースの確保
・安全な作業環境の整備
C. 職場の人間関係・相互支援
・コミュニケーションの活性化
・上司や同僚からのサポート体制
・ハラスメント防止対策
D. 安心できる職場のしくみ
・相談窓口の設置と周知
・キャリア支援の充実
・公正な評価制度
小さな改善から始める重要性
職場環境改善は「すぐできることから始め、段階的な改善を進める」ことが重要です。
たとえば、以下のような小さな改善が効果的です。
✅ 朝礼での情報共有方法の改善
✅ 休憩室への癒しアイテムの設置
✅ 業務の見える化による負担の平準化
✅ 感謝を伝える仕組みづくり
50人未満事業場への義務化拡大に向けた準備
準備のポイントはこちらです。
詳細は、とても分かりやすいマニュアルを厚生労働省が出しているので是非そちらをご覧ください。
※厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html
形骸化を防ぐための継続的な取り組み
ストレスチェック制度義務化の形骸化を防ぐには、一過性の取り組みではなく、継続的な改善活動が必要です。
取り組み1 | 取り組み2 | 取り組み3 | |
---|---|---|---|
1.トップのコミットメントの維持 | 定期的なメッセージ発信 | 改善活動への参加 | 成果の承認と評価 |
2.従業員の参加意欲の向上 | 改善効果の見える化 | 成功体験の共有 | インセンティブの設定 |
3.制度の継続的な見直し | 実施方法の改善 | 新たなツールの導入 | 外部環境の変化への対応 |
まとめ
ストレスチェック制度義務化は、適切に活用すれば企業に大きな利益をもたらす制度です。
しかし、36%の企業で形骸化し、休職者1名あたり422万円の損失、メンタルヘルス不調による離職率40%超という深刻な状況が続いています。
一方で、適切に実施した企業ではROI 2.36を達成するなど、投資効果の高い取り組みであることも証明されています。2025年には50人未満の事業場にも義務化が拡大される中、今こそストレスチェック制度義務化を形骸化させず、真に効果的な制度として活用する転換期です。
参加型職場環境改善を中心とした実践的な取り組みにより、従業員の健康と企業の生産性向上の両立を実現し、持続可能な経営基盤を構築することが、すべての人事担当者と経営者に求められています。
面談でもメンタルケアは可能です!
⇒人気アーカイブ動画|メンタルケア面談のすすめ
- 株式会社PDCAの学校/
- コラム /
- ストレスチェック制度義務化の形骸化が招く年間422万円の損失
無料で学べる全4章
Eラーニング「新入社員研修」
ビジネスマナーとホウレンソウなど、ビジネスに必要な知識習得とケーススタディによるスキル習得ができる
- 第一章
- 超実践!ビジネスマナー
- 第二章
- 業務効率向上!ホウレンソウ(報連相)
- 第三章
- 絶対関係構築!コミュニケーション
- 第四章
- クレームをファンに変える!顧客対応
-
CONTACT研修のご相談はこちら
設立以来15年間で延べ
5000社以上110,155名の支援実績 -
RECRUIT採用情報
一人一人の価値を圧倒的に高める
「働きがいを生きがいへ」