アドラー心理学を活用した社員育成法

アドラー心理学を活用した社員育成法

アドラー心理学とは何か

アドラー心理学とは、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラーによって確立された心理学で、個人心理学とも呼ばれています。20世紀初頭に誕生したこの心理学は、フロイトの精神分析やユングの分析心理学と並び「心理学の三大潮流」の一つです。
近年、『嫌われる勇気』などのベストセラーをきっかけに日本でも広く知られるようになったアドラー心理学ですが、その本質は「人間の行動は過去の出来事によって決定されるのではなく、自分で選んだ目標に向かって行動している」という考え方にあります。人材育成に携わる人事担当者にとって、この視点は社員の可能性を引き出す鍵となるでしょう。

アドラー心理学の基本と社員育成への応用

アドラー心理学には、社員育成に応用できる重要な概念がいくつかあります。

アドラー心理学の主要概念

1. 目的論
人間の行動は過去の経験ではなく、未来の目的に向かって動機づけられているという考え方です。社員の行動を理解する際に「なぜそうしたのか」ではなく「何のためにそうしたのか」という視点が重要になります。

2. 共同体感覚
人は社会や共同体の中で生きる存在であり、他者との協力関係の中で自己の価値を見出すという概念です。チームワークや組織への帰属意識を高める上で重要な視点となります。

3. 勇気づけ
人は認められ、勇気づけられることで成長するという考え方です。叱責や批判ではなく、ポジティブな側面に注目することが効果的な育成につながります。

4. 課題の分離
自分の課題と他者の課題を明確に分けて考えるという概念です。上司が部下の仕事まで抱え込まず、適切に権限委譲することの重要性につながります。

なぜ、社員育成にアドラー心理学が有効なのか

アドラー心理学が社員育成に有効な理由はいくつかあります。

まず、アドラーの目的論的アプローチは、社員が「何のために働くのか」という目的意識を明確にすることで、内発的なモチベーションを高める効果があります。単に上司の指示に従うのではなく、自分の仕事の意義を理解することで、主体的に業務に取り組むようになります。

次に、共同体感覚の概念は、チームワークや組織文化の構築に役立ちます。個人の成果だけでなく、組織全体の成功に貢献する意識を育てることで、協力的な職場環境を作り出せます。

このように、アドラー心理学の考え方は、自律的に考え行動できる人材を育成したい現代の組織ニーズに非常にマッチしています。

アドラー心理学を活用した具体的な育成方法

アドラー心理学の理論を実際の社員育成に活かすには、具体的にどのような方法があるのでしょうか。ここでは実践的なアプローチをご紹介します。

勇気づけを取り入れたフィードバック方法

従来の評価面談やフィードバックでは、しばしば「できていないこと」に焦点が当てられがちです。しかしアドラー心理学の観点からは、「できていること」や「努力していること」に注目し、勇気づけることが重要です。

具体的なフィードバック方法として、以下のポイントを意識してみましょう。

① 結果だけでなく、プロセスや努力を評価する
②「〜すべき」という言葉を避け、選択肢を提示する
③ 具体的な行動に対して感謝や評価を伝える

例えば「この企画はうまくいかなかったね」ではなく、「この企画で学んだことを次にどう活かせそうか一緒に考えよう」というアプローチが勇気づけにつながります。

課題分離による成長支援

アドラー心理学における「課題の分離」は、適切な権限委譲と自律性の育成に役立ちます。上司の課題と部下の課題を明確に分け、過度な介入や支配を避けることで、社員の主体性を育てられます。

例えば、部下が困難に直面したとき、すぐに解決策を教えるのではなく、「どうしたら解決できると思う?」と問いかけることで、自ら考える力を育てることができます。

共同体感覚を育む組織づくり

アドラー心理学が重視する「共同体感覚」は、チームワークと組織への帰属意識を高めるために不可欠です。以下のような取り組みが効果的です。

アドラー心理学を活用した1on1ミーティングの実践

1on1ミーティングはアドラー心理学の考え方を活かす絶好の機会です。
以下のポイントを意識しましょう。

① 水平的な対話を心がけ、上下関係ではなく対等な関係性を築く
②「なぜ」ではなく「何のために」という目的志向の質問をする
③ 課題や問題に対して「どうしたいか」を先に聞き、主体性を尊重する

例えば「なぜこの仕事が遅れたのか」と問うのではなく、「このプロジェクトを成功させるために、あなたは何を大切にしたいと思っているか」と聞くことで、目的を共有し前向きな対話が生まれます。

導入時の注意点

アドラー心理学を社員育成に取り入れる際の注意点として、勇気づけと過度な褒め言葉は異なることを理解しましょう。事実に基づかない褒め言葉は逆効果になりうるため、具体的な行動や努力に焦点を当てた勇気づけが重要です。

また、課題の分離は放任ではありません。適切なサポートと見守りが必要です。水平的関係も責任の放棄ではなく、むしろ互いの責任を明確にするものだと理解しましょう。

まとめ:アドラー心理学を活用した社員育成の可能性

本記事では、アドラー心理学とは何か、その主要概念と社員育成への応用方法について解説してきました。アドラーが提唱した目的論、共同体感覚、勇気づけ、課題の分離といった概念は、現代の人材育成において非常に有効なアプローチとなります。

特に「人間は過去ではなく未来に向かって行動する」というアドラー心理学の基本的な考え方は、社員の可能性を信じ、成長を促す人事施策の基盤となるでしょう。具体的な実践方法としては、勇気づけを取り入れたフィードバック、課題分離による権限委譲、共同体感覚を育む組織づくり、そして目的志向の1on1ミーティングなどがあります。

人材が企業の最大の資産である現代において、アドラー心理学の知見を活かした社員育成は、組織の持続的な成長と発展に大きく貢献するはずです。あなたの組織でも、ぜひこの心理学的アプローチを取り入れてみてください。


フィードバックの方法についてはこちらをご参考ください。
⇒記事:https://pdca-school.jp/column/5386

無料で学べる全4章
Eラーニング「新入社員研修」

ビジネスマナーとホウレンソウなど、ビジネスに必要な知識習得とケーススタディによるスキル習得ができる

第一章
超実践!ビジネスマナー
第二章
業務効率向上!ホウレンソウ(報連相)
第三章
絶対関係構築!コミュニケーション
第四章
クレームをファンに変える!顧客対応
無料で学べる全4章