中小企業のリスキリング戦略を成功事例から考える

中小企業のリスキリング戦略を成功事例から考える

「リスキリング」という言葉を聞いたことはあっても、

「うちの会社には関係ない」

「大企業の話でしょ?」

と感じている中小企業の経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
しかし、実はリスキリングに取り組んだ中小企業の中には、生産性2倍という驚異的な成果を達成した企業が存在します。本コラムでは、リスキリングの必要性から成功事例、そして中小企業が今日から始められる具体的なアクションまでを詳しく解説します。

リスキリングとは何か

まず、リスキリングの定義を確認しましょう。

リスキリング(Reskilling)とは
新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために必要なスキルを獲得する/させること。

リスキリングは世界的なトレンドとなっています。2020年には世界経済フォーラムが「リスキリング革命」を発表し、日本でも2022年に岸田首相(当時)が「5年間で1兆円投資」を表明しました。2024年には石破首相も所信表明でリスキリングの重要性に言及しており、政府も国家戦略として位置づけていることがわかります。

リスキリングがもたらす価値

リスキリングは企業と従業員の双方にメリットをもたらします。

企業にとってのメリット

・業務効率化・生産性向上
・新規事業・イノベーション創出
・人材確保コストの削減
・組織の変革・競争力強化

従業員にとってのメリット

・スキルアップ・キャリア向上
・仕事へのやりがい・成長実感
・雇用の安定性向上
・市場価値の向上

注目ポイント:やりがい・成長実感の創出は離職予防として効果絶大です。従業員のエンゲージメントを高めることで、優秀な人材の流出を防ぐことができます。

リスキリング実施企業の成果実感度

パーソルイノベーションが2024年に実施した調査によると、リスキリングを実施している企業のうち、70%以上が成果を実感していると回答しています。具体的な成果として挙げられているのは以下の通りです。
・業務効率の向上
・新規事業の創出
・従業員満足度の向上
・離職率の低下

一方で、帝国データバンクの調査(2024年)によると、中小企業の9割以上がいまだリスキリングに取り組めていないという実態も明らかになっています。「リスキリングという言葉も知らない」という企業は10.1%にのぼります。

だからこそ、チャンス!
大企業を含め多くの他社が未着手の今、リスキリングに取り組むことで人材確保で圧倒的優位に立てる可能性があります。

中小企業でリスキリングが実施されない背景

帝国データバンクの調査では、リスキリングに取り組む上での課題も明らかになっています。

課題 回答率
対応する時間が確保できない 42.1%
対応できる人材がいない 38.9%
必要なスキルやノウハウがない 30.9%
従業員のモチベーション維持が難しい 26.0%
対応する費用が確保できない 23.2%
全社的に方針や文化がない 18.8%
どこから手をつけて良いか分からない 17.4%

これらの課題は確かに大きな壁に見えますが、実際にこれらを乗り越えてリスキリングを成功させた中小企業が存在します。次章では、その成功事例を詳しく見ていきましょう。

リスキリング成功事例

成功事例① 石川樹脂工業株式会社(石川県加賀市・樹脂製品製造業)

【課題】
・人材不足とデジタル化の遅れ

【施策】
・経営者自らプログラミング知識を学習
・アナログ作業を自動化
・従業員にも継続的に学ぶ機会を提供し教育

【成果】
・教育を含め3年かけて生産性2倍
・従業員給与引き上げを実現
・日経リスキリングアワード大賞を受賞

ポイント:経営者自らがリスキリングを実践した結果、組織全体の変革につながりました。

成功事例② Jマテ.カッパープロダクツ株式会社(新潟県上越市・銅合金製造業)

【課題】
・2050年の人材不足予測への対応(労働人口約30%減)

【施策】
・社長主導のDX推進プロジェクト
・RPA導入とAI-OCR活用
・従業員のデジタルスキル研修

【成果】
・生産性が向上し、年間1,000時間の業務時間を削減
・上越地域初のDX認定取得

ポイント:30年先の労働人口減少問題を見据えた戦略的なリスキリング投資が成果につながりました。

成功事例③ 山陰合同銀行(島根県・地方銀行)

【課題】
・商圏は高齢化率が高く人口減少も見越される厳しい環境
・女性社員の活躍がない(お茶くみ・雑務メイン)

【施策】
・女性社員への集中リスキリング
・研修のすべてを業務と位置づけ就業時間内で受講

【成果】
・3期連続過去最高益更新
・女性管理職比率24.1%へ増加

ポイント:トップの強いコミットメントと、「研修=業務」という明確な位置づけが成功の鍵でした。

成功事例の共通ポイント

上記の成功事例には、3つの共通点があります。

1. 経営者の本気度
自らリスキリングを推進、実践。継続的な発信を行っています。

2. 実業務と連動したリスキリング
現在、もしくは近い将来課題となる部分への対策に直結しています。

3. 長期施策・支援
単発の研修ではなく、継続したリスキリング機会を提供しています。

よくある障害とその乗り越え方

リスキリングを阻む3大障害と、その解決策を見ていきましょう。

障害1:「時間がない」

よくある声
「人手不足で研修時間なんて取れない」
「残業続きで勉強どころじゃない」

⇒ 解決策:時間の使い方の見直し
業務改善と学習を同時進行することで、この問題を解決できます。

例)見積書作成に時間がかかっている場合
① エクセルによる自動化を調べ、1日30分だけ取り組む
② 自動化によって正確性も上がり大幅に時間短縮
③ 空いた時間で次のスキルを学習

障害2:社員のモチベーションが続かない

よくあるパターン
・目標設定が曖昧
・学習効果をしばらく感じられない

⇒ 解決策:明確な目標設定と学習進捗の見える化
・「期限」と「基準」が明確な目標にする
・学習進捗を見える化したロードマップを作成し、視覚的にも達成感を感じられる仕掛けにする

障害3:ノウハウ不足

よくある社内の声
「誰が何を勉強すれば、会社の利益になるのか分からない」
「どう管理、推進すればいいのか、誰も分からない」

⇒ 解決策:ノウハウは盗める
・他社の成功事例を調べ小規模で導入していく
・初めは専門家を頼り、得たノウハウを社内へ内製化する

リスキリング計画の進め方

効果的なリスキリングを実施するための6つのステップを紹介します。

① 目的・ゴールの明確化
経営戦略と連動させることが重要です。「学ぶ」ではなく「できる」へ、実務との連動を意識しましょう。

② 必要スキルの棚卸し
現状スキルと将来必要スキルのギャップを可視化し、不足を明確にします。

③ 対象者と優先順位の設定
全員一律ではなく役割・部門ごとに設計し、小規模からスタートします。

④ 学習方法の設計
研修+実務プロジェクト+フィードバックの組み合わせで、あくまで会社主導で進めます。

⑤ 評価と成果測定
行動変化・業務成果で効果を確認します。これがモチベーション維持にも寄与します。

⑥ 継続・定着の仕組み
一度きりではなく制度化・共有化を行い、組織に根付かせます。

すぐできる簡単アクション4つ

明日から始められる具体的なアクションを紹介します。

アクション1:スキルの可視化(不足をみる)

  • 「今の業務で必要なスキル」「将来必要になりそうなスキル」を部署ごとに整理する
  • ホワイトボードやExcelで簡単に整理するだけでOK

アクション2:日常業務に”学び要素”を加える

  • 会議で「新しいツールを使った工夫」や「最近の業界動向」を全員、1つずつ共有する
  • 無理に研修を作らず、業務の中に自然に組み込む

アクション3:小さな学びの場を設ける

  • 社内で1人が「学んだこと」を10分で共有する”ショート勉強会”を実施
  • 外部研修に出す前に、まずは社内の知識を流通させる

アクション4:外部コンテンツの活用

  • 無料で使えるオンライン教材を紹介し、各自が興味あるものを週1本視聴
  • 1週間後の会議で「学びの簡単シェア(実務でどう活かすか)」をする

注意点:呼びかけだけでは動かない

要注意!

「無料アプリで〇〇を勉強しておきましょう」
「週1時間勉強しましょう」
「半年以内に資格を取りましょう」

このような呼びかけだけでは、やりません。

特に管理職は業務に追われることを理由に、あと回しにする傾向があります。

だからこそ、業務時間に組み込み、まずは企業が環境を整備し定着させる必要があるのです。成功事例で見た山陰合同銀行のように、「研修=業務」という明確な位置づけが重要です。

まとめ:中小企業こそリスキリングを

本コラムでは、中小企業のリスキリング戦略について成功事例を交えて解説してきました。

重要なポイントを振り返ります。
・リスキリング実施企業の70%以上が成果を実感している
・中小企業の9割以上が未着手=今始めれば競争優位に立てる
・成功の鍵は「経営者の本気度」「実業務との連動」「継続的な支援」
・時間・モチベーション・ノウハウの課題は、工夫次第で乗り越えられる
・呼びかけだけでなく、業務時間内での環境整備が重要

経営層、人事担当者の皆様へ

リスキリングは、決して大企業だけのものではありません。むしろ、意思決定が早く、組織の変革がしやすい中小企業こそ、リスキリングの効果を最大限に発揮できる可能性を持っています。石川樹脂工業株式会社のように生産性2倍を達成した企業は、3年という時間をかけて継続的に取り組んできました。
まずは小さな一歩から。今日紹介した「すぐできる簡単アクション」から始めてみてはいかがでしょうか。


参考資料:
パーソルイノベーション調査(2024年)
帝国データバンク「リスキリングに関する企業の意識調査」(2024年)

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