部下育成キャンセル界隈が蔓延る理由とは?

部下育成キャンセル界隈が蔓延る理由とは?

「正直、部下の育成にはもう疲れた」——そう感じている管理職の方は、決して少なくありません。自分の仕事は山積み。それなのに何度教えても部下には響かない。時間を割いて指導しても、思うような成果が出ない。気づけば「もう自分でやった方が早い」と、育成を後回しにしている自分がいる。今、ビジネスの現場で静かに広がっているのが「部下育成キャンセル界隈」という現象です。本コラムでは、なぜこの現象が蔓延しているのか、その原因と解決策を探っていきます。

「部下育成キャンセル界隈」とは何か

SNS上で話題の「○○キャンセル界隈」という言葉をご存じでしょうか。これは「やらなければならないとわかっているが、面倒で気力がない、やりたくないこと」を自虐的に表現する際に使われる言葉です。

「部下育成キャンセル界隈」とは、部下育成に疲れ果てた上司たちが、育成を事実上放棄してしまっている状態を指します。

「キャンセル」の具体的な姿

  • 1on1は実施するが、中身のない形式的な面談で終わる
  • 業務指示のみで、育成的な関わりをしない
  • 指導より自分のプレイヤー業務を優先する

これは一部の「やる気のない管理職」だけの話ではありません。真面目に仕事に取り組んできた管理職ほど、この状態に陥りやすいのです。

数字が示す管理職の「部下育成」への重圧

ALL DIFFERENTの「管理職意識調査レポート」のデータをご覧ください。

管理職の悩み 第1位

「部下の育成」55.2%

半数以上の管理職が最大の悩みとして回答

さらに「部下とのコミュニケーション」「部下の評価・フィードバック」といった部下に関する悩みがTOP3を占めました。

注目すべきは、部下育成で課題を感じるかという質問への回答です。

約70%

「課題を感じる」と回答

0%

「全くない」と回答

部下育成に悩んでいない管理職は存在しない——これが現実です。

株式会社あしたのチームの調査では、管理職をやめたい人が半数を超えています。理由には「自分のことで手一杯なのに、部下のことまで考えるのが辛い」「部下育成による業務負荷の増大」が並んでいます。

なぜ管理職は部下育成を投げ出すのか【4つの理由】

中間管理職はいらないはホント?

真面目に仕事に取り組んできた管理職が、なぜ部下育成を投げ出してしまうのでしょうか。その理由は明確です。

理由① 体系的な育成手法を知らない

多くの管理職は「見て覚えろ」の時代に育ち、体系的な育成を受けた経験がありません。そのため部下を育てる段になっても、具体的な方法論を持っていないのです。自己流で試行錯誤しても、成果は出ません。方法を知らないのですから、当然のことです。

💡 ポイント:多くの管理職が部下育成で挫折する根本的な理由は、「どうやって育てるか」の具体的な方法を知らないことにあります。

理由② 育成の成果が見えない

営業成績なら数字で測れます。しかし育成の成果は数値化できません。

・効果が出るまでに数か月〜1年以上のタイムラグがある
・人事評価は「部門の業績」が中心
・育成への取り組みは評価されにくい

評価されない仕事より、数字で測れる仕事を優先してしまうのは、ある意味で当然の判断といえます。

理由③ プレイヤー業務との両立で疲弊

プレイヤーとしての業務は減りません。そこにマネジメント業務が上乗せされます。

管理職に求められる業務

戦略策定と目標設定 / コンプライアンスの徹底 / 自身の業務目標の達成 / 部下・メンバーの育成・評価 / チーム・部署における業務遂行

限られた時間の中で、目の前の業務が優先されます。育成は常に後回しになってしまいます。「部下に任せて失敗されるより、自分でやった方が早い」——この悪循環に陥ってしまうのです。

理由④ 管理職の役割責任の理解不足

そもそも会社側が、管理職の役割責任を明確に伝えていないケースも少なくありません。部下育成が最優先業務だという認識がなければ、プレイヤー業務に押し出されてしまうのは必然です。

これら4つの理由が重なり、「部下育成=将来への投資」であるはずが、「部下育成=負担」という認識に変わってしまうのです。

放置すれば組織は崩壊する【3つの損失】

中小企業必見!プレイングマネージャーから抜け出す方法とは?

部下育成の放棄がもたらす損失は、想像以上に深刻です。

損失① 若手の成長機会喪失と離職の加速

成長実感を得られない若手は「この会社にいても成長できない」と判断します。離職が増えれば採用コストがかさみ、ノウハウも流出。組織の空洞化が進行してしまいます。

損失② 次世代リーダーの枯渇

部下が育たないまま時間が過ぎれば、管理職候補が枯渇します。次世代に引き継げる人材がおらず、新規事業や組織拡大も実行できません。組織の継続性そのものが危うくなります。

損失③ 組織の競争力低下と負の循環

部下に任せられないから自分で抱え込む。疲弊して育成の余裕がさらになくなる。部下は育たない。この負のスパイラルから抜け出せなくなり、チーム全体の生産性が低下してしまいます。

発想の転換——「教える」から「引き出す」へ

では、どうすればよいのでしょうか。ここで認識を改める必要があります。

部下育成の本質は「教える」ことではありません。
部下が自ら成長する環境を整えることです。

つまり、上司がすべてを教え込む必要はないのです。部下自身が考え、答えを見つけるプロセスを設計すればよいのです。

その具体的手法として「GROWモデル」があります。質問を通じて部下を目標達成へ導くコーチング手法です。

GROWモデルの5つのステップ

ステップ 内容
1. Goal(目標設定) 何をいつまでにどのくらい達成するのかを明確にする
2. Reality(現状把握) 目標と現状のギャップを数値や事実で客観的に把握する
3. Resource(リソース) 目標達成に使えるスキル・経験・協力者を洗い出す
4. Options(選択肢) 部下自身にあらゆる選択肢を考えさせる
5. Will(意思決定) 「いつ・何を・どのように」を具体的に決める

上司は答えを与えるのではなく、問いを投げかけます。部下は自分で考え、自分で解決策を見つけます。

GROWモデルを活用するメリット

  • 主体性の高い人材を育成できる——上司が細かく指示を出さなくても、部下が自発的に業務に取り組むようになります
  • 漠然とした問題を具体化できる——目標と現状のギャップが明確になり、優先順位を正しくつけることができます
  • 部下のモチベーションを高められる——自分で考え出した選択肢から決定することで、納得して行動できます

この方法なら、上司の負担は減り、部下の成長は加速します

明日から実践できる3つのステップ

STEP 1:定期面談もしくは定例会議で実践

GROWモデルを活用した指導に慣れるまでは、事前に伝えたい内容や質問事項を整理してから臨める場面での実践がおすすめです。いきなり日常のすべてで実践しようとせず、まずは週1回の面談から始めてみましょう。

STEP 2:部下に考えさせる時間を作る

すぐに上司からヒントや答えを与えるのではなく、まずは部下自身に選択肢を考えさせましょう。上司はあくまで引き出す役割に徹し、全体のうち6割〜7割は部下が話している状況がベストです。

STEP 3:次回の面談や会議で振り返る

目標達成に向けては継続的なフォローが重要です。目標に対しての進捗を確認し、客観的事実に基づき振り返り、選択肢やリソースを見直しましょう。この継続が部下の成長と上司の負担軽減を両立させます。

まとめ

メンター制度とは何?導入するメリットや注意点をわかりやすく解説

「部下育成キャンセル界隈」は、個人の怠慢ではありません。構造的な問題が生み出した現象です。しかし、放置すれば組織は確実に弱体化します。

本コラムのポイント

  • 管理職の部下育成放棄は、組織全体の成長を止める深刻な問題です
  • 原因は「体系的な手法を知らない」「成果が見えにくい」「時間がない」「役割の曖昧さ」にあります
  • 部下育成の本質は「教える」ことではなく、部下が自ら成長する環境を整えることです
  • GROWモデルを使った指導により、上司の負担を減らし、部下の成長を促進できます

必要なのは、根性論ではなく方法論です。体系的な育成手法を身につけ、「教える」から「引き出す」へ発想を転換しましょう。それが、これからの管理職に求められる戦略的選択です。

部下が自ら考え、成長する組織をつくる。
それは上司にとっても、部下にとっても、組織全体にとっても、
最も合理的な解ではないでしょうか。

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