コラム記事

人的資本経営とエンゲージメントの基礎知識

近年、「人的資本経営」という言葉をビジネスシーンで頻繁に見聞きするようになりました。これは単なるトレンドではなく、従業員を「コスト」ではなく「資本」として捉え、その能力開発や適切な配置に戦略的に投資することで、企業の持続的成長を実現する経営手法です。
一方、「エンゲージメント」とは、従業員が会社の理念や目標に共感し、強い帰属意識を持って主体的に業務に取り組む状態を指します。単なる満足度や働きやすさとは異なり、組織の成功に向けた積極的な関与と貢献意欲を意味します。

この「人的資本経営」と「エンゲージメント」は切っても切れない関係にあります。人的資本経営の本質的な実践は、従業員のエンゲージメント向上に直結し、それがさらに生産性向上や企業価値の増大という好循環を生み出すのです。

しかし、2024年に経済産業省が公表した「人的資本経営の実践状況に関する調査」によれば、日本企業の約68%が人的資本経営の重要性を認識しながらも、実際に体系的に実践できている企業は27%に留まっています。さらに、エンゲージメント施策と経営戦略を連動させている企業はさらに少なく、約18%という結果が出ています。

このギャップを埋めるためには、人的資本経営における具体的なエンゲージメント向上策が不可欠です。人材を真の「資本」として扱い、その価値を最大化するためには、従業員のエンゲージメントを高める戦略的なアプローチが求められているのです。

人的資本経営でエンゲージメントを高める5つの戦略

人的資本経営の視点からエンゲージメントを向上させるために、以下の5つの戦略が効果的です。

1. 透明性のある情報共有と対話の促進

従業員が会社の状況や方向性を理解していることは、エンゲージメントの基盤となります。特に、重要なのは以下の2点です。

✅定期的な経営状況の共有
✅双方向のコミュニケーションチャネルの確立

実行しないことによるリスク: 経営状況の共有不足は、社内の噂や不安を招き、会社への不信感や人材流出リスクを高めます。また、双方向コミュニケーションの欠如は現場の声が届かず、従業員の帰属意識低下と組織変革への抵抗を生み出します。

2. 個人の成長機会の創出

人的資本経営では、従業員のスキル開発や成長は投資と位置づけられます。特に、エンゲージメント向上に直結する施策が以下の2点です。

✅キャリア開発支援
✅学習機会の提供

実行しないことによるリスク: キャリア開発支援の欠如はモチベーション低下と人材流出を招き、内部育成の停滞で採用コストが増加します。また、学習機会不足は組織の硬直化とイノベーション力低下を引き起こし、従業員の不満増加と長期的な競争力喪失につながります。

3. 公正な評価と報酬制度の構築

人的資本経営において、評価制度は単なる人事管理ツールではなく、人材価値を最大化するための重要な仕組みです。特に、エンゲージメントを高める評価制度の条件が以下の2点です。

✅透明性がある
✅成果と成長の両面を評価する

実行しないことによるリスク: 透明性のない評価制度は不信感と諦めを生み、生産性低下と組織分断を招きます。また、成果と成長の両面を評価しないと、短期志向の行動が広がり、チーム協働の阻害と持続的成長力の低下につながります。

4. 心理的安全性のある職場環境の整備

人的資本経営では、従業員が安心して意見を述べ、挑戦できる環境づくりが重要です。特に、心理的安全性の高い職場の傾向は以下の2点です。

✅創造性が発揮される
✅エンゲージメントが高まる

実行しないことによるリスク: 創造性を発揮できない環境では、改善提案が減少し、問題対応が遅れ、組織の硬直化と市場競争力の低下を招きます。また、エンゲージメント施策の欠如は生産性低下と離職率上昇を引き起こし、顧客満足度と企業価値の低下につながります。

5. 経営層の積極的関与と一貫したメッセージ

人的資本経営を成功させるには、経営層の本気度が問われます。特に、エンゲージメント向上につながる経営層の行動が以下の2点です。

✅トップ自らが人材価値の重要性を発信
✅一貫した行動を見せる

実行しないことによるリスク: 経営層が人材価値の重要性を発信しないと、人的資本への投資が軽視され、人材育成文化が形成されません。また、一貫性のない行動はトップへの信頼喪失を招き、組織全体に懐疑的態度が広がり、変革の失敗につながります。

これらの戦略は個別に機能するものではなく、人的資本経営の全体的なフレームワークの中で互いに連携し合うことで、最大の効果を発揮します。企業の規模や業種に関わらず、自社の状況に合わせてこれらの戦略を適用することで、エンゲージメントの向上と、それに伴う企業価値の増大が期待できます。

まとめ：人的資本経営とエンゲージメント向上の好循環を生み出す

人的資本経営とエンゲージメントの関係性について理解を深め、5つの効果的な戦略を見てきました。人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、適切に投資することで、従業員のエンゲージメントは確実に向上します。
透明性のある情報共有、成長機会の創出、公正な評価制度、心理的安全性の確保、そして経営層の積極的関与という5つの戦略は、人的資本経営の実践において特に重要な要素です。これらを体系的に実施することで、従業員は組織の一員としての誇りと責任を持ち、主体的に価値創造に取り組むようになります。
しかし、これらの取り組みは一朝一夕に成果を出すものではありません。長期的な視点で人的資本に投資し続けることが重要です。2025年以降も、人的資本経営の重要性はさらに高まることが予想され、エンゲージメント向上への取り組みが企業の競争力を左右する時代になるでしょう。
企業が持続的に成長するためには、人的資本経営の視点からエンゲージメントを高める施策を戦略的に展開し、人材と組織の価値を最大化することが不可欠です。今こそ、人的資本経営とエンゲージメント向上に真剣に取り組むべき時なのです

※本記事は2025年3月4日時点の情報に基づいて作成されています。

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若手社員のエンゲージメント施策についてはこちらをご参考ください。
⇒記事：https://pdca-school.jp/column/5715?fpc=757.203.365.75b60302197f663n.1765263787000