製造業の人材課題解決にバリューチェーン分析を!
2025.08.22

そもそもバリューチェーンって何?
バリューチェーンとは、企業が商品を作って売るまでの一連の活動を「価値の鎖(チェーン)」として見る考え方です。
簡単に言うと、、、
✅「どの工程でお客さんにとって価値のあるものを作っているか?」
✅「どこでお金(利益)が生まれているか?」
を分析する方法です。のちほど詳しく解説します。
製造業が直面する深刻な人材課題
製造業では深刻な人材不足と技術継承の問題が顕在化しています。国内の製造業就業者数は2002年の1,202万人から2019年には1,063万人と、20年間で11.6%減少しており、パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計 2030」によると、2030年には38万人の人手が不足すると予測されています。
経済産業省の2017年調査では、製造業の94%以上の企業で人手不足が顕在化しており、32%の企業がビジネスにも影響が出ていると回答しています。また、厚生労働省の2024年11月時点のデータでは、製造業に該当する「生産工程の職業」の有効求人倍率は1.50倍となっており、全国平均の1.25倍を大きく上回る状況が続いています。特に技能人材の確保が最も困難で、複数回答で83.3%、最重視項目として59.1%の企業が「技能人材」の確保に課題を抱えています。
バリューチェーン分析の基本概念と製造業での活用
バリューチェーン分析は、マイケル・ポーター教授が提唱した経営戦略フレームワークで、企業の価値創造活動を「主活動」と「支援活動」に分類して分析する手法です。
製造業における基本的なバリューチェーン構造
主活動
購買物流:原材料・部品の調達、受入、保管
製 造:製品の製造・組立、品質管理
出荷物流:完成品の保管・配送、流通チャネル管理
マーケティング・販売:広告・宣伝活動、営業活動
サービス:アフターサービス、保守・メンテナンス
支援活動
企業インフラ:経営管理、財務・会計、法務・総務
人事 管理:採用・育成、評価・報酬制度、労務管理
技術 開発:研究開発、技術革新、特許管理
調 達:購買戦略、サプライヤー選定、コスト管理
製造業でのバリューチェーン分析成功事例
事例1:伊藤園の価値創造活動最適化
伊藤園はバリューチェーン分析により、調達活動と販売活動での独自の強みを特定しました。茶葉生産地との強固な信頼関係を構築し、高品質な原材料を安定調達する体制を確立。また、一般的な中間流通業者を通さず、自社営業による小売企業への直接販売を行うことで、広告依存度を低減した独自の販売体制を構築しています。
事例2:トヨタ自動車の製造プロセス最適化
トヨタ自動車はバリューチェーン分析を活用し、ジャストインタイム生産やカンバン方式など、リーン生産方式における価値創造構造を明確化しました。製造プロセスの最適化により効率性を最大化し、サプライチェーン強化による供給タイミングと品質管理で、グローバルな競争力を維持しています。
人材戦略への応用可能性の検討
バリューチェーン分析の手法を人材戦略に応用することで、製造業の人材課題解決に新たなアプローチが期待できます。以下のような活用方法が考えられます。
価値創造度に基づく人材配置の最適化
各バリューチェーン活動における価値創造度を分析し、最も価値を生み出す工程に優秀な人材を重点配置することで、限られた人材リソースの効果を最大化できる可能性があります。
工程別人材投資効率の評価
人件費や研修費などの人材投資に対する価値創造効果を工程別に分析することで、教育投資の優先順位を客観的に決定できると考えられます。
技能継承プロセスの可視化
バリューチェーンの各活動で必要な技能を明確化し、熟練技術者から若手への技能継承プロセスを体系的に設計できる可能性があります。
実践時の検討ポイントと課題
データ収集と分析の複雑性
人材の価値創造度を正確に測定するには、作業時間、品質指標、顧客満足度など、複数の指標を組み合わせた多面的な評価が必要となり、データ収集と分析に相当な時間とコストがかかることが予想されます。
現場との合意形成
理論的な分析結果を実際の人材配置に反映させるには、現場管理者や従業員との十分な合意形成が必要です。既存の組織文化や人間関係を考慮した段階的な実施が重要となるでしょう。
継続的な見直しの必要性
市場環境や技術の変化により、バリューチェーンの価値構造は変動するため、定期的な分析の見直しと人材戦略の調整が不可欠です。
今後の展望と提言
製造業における人材課題の解決には、従来の経験や勘に頼った人材配置から、データに基づく科学的なアプローチへの転換が求められています。バリューチェーン分析の人材戦略への応用は、その有力な手法の一つとして検討価値があります。
ただし、この手法はまだ理論的な段階であり、実際の導入には慎重な検証と段階的な実施が必要です。まずは小規模なパイロットプロジェクトから始め、効果を確認しながら全社展開を検討することが現実的なアプローチといえるでしょう。
まとめ
製造業の深刻な人材不足に対し、バリューチェーン分析を活用した新たな人材戦略の可能性を検討しました。価値創造度に基づく人材配置最適化、工程別人材投資効率の評価、技能継承プロセスの可視化など、理論的には有効なアプローチが考えられます。
しかし、実践には慎重な検証が必要であり、データ収集の複雑性、現場との合意形成、継続的な見直しなどの課題も存在します。製造業の人事担当者・経営者の皆様には、この新しいアプローチの可能性を検討いただき、自社に適した形での導入を慎重に進めていただければと思います。
参考データ:
- 経済産業省「ものづくり白書2020年版」
- パーソル総合研究所「労働市場の未来推計 2030」
- 厚生労働省「一般職業紹介状況」
- 経済産業省「製造業における人材確保の状況調査(2017年)」
- 株式会社PDCAの学校/
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- 製造業の人材課題解決にバリューチェーン分析を!
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