不動産業界の課題と次世代育成戦略
2025.07.04

不動産業界の現状と人材育成における課題
不動産業界の現状と変化する環境
不動産業界は今、大きな転換期を迎えています。テクノロジーの急速な進化、少子高齢化による人口動態の変化、働き方改革によるオフィス需要の変化など、様々な外部環境の変化に直面しています。国土交通省の「不動産業ビジョン2030」によれば、不動産テックの台頭により、従来の仲介業務や物件管理のあり方が根本から変わりつつあるとされています。
このような環境下で、不動産業界の課題として最も重要なのが「人材育成」です。変化に対応できる人材をいかに育成するかが、企業の競争力を左右する鍵となっています。
不動産業界が直面する人材育成の主な課題
– 世代間ギャップと知識継承の問題
不動産業界は経験豊富なベテラン社員と若手社員の世代間ギャップが顕著です。国土交通省の「不動産業ビジョン2030」によると、2015年時点で、不動産業界の従業員の6割以上が50歳以上である一方、30歳未満は全体の20%に満たないという年齢構成の偏りがあります。
このような状況では、ベテラン社員が持つ豊富な経験や暗黙知を若手社員に効果的に継承することが難しく、不動産業界の課題として浮き彫りになっています。
– デジタルスキル習得の遅れ
不動産業界は他産業と比較してDX(デジタルトランスフォーメーション)への対応が遅れているとされています。多くの企業で、ITシステムの導入やデジタルマーケティングなどの新しい手法に対応できる人材の育成が追いついていないことが指摘されています。
– 業務の属人化と離職率の問題
不動産取引は物件ごとに条件が異なるため、業務の標準化が難しく、営業社員個人の経験や勘に依存する「属人的」な業務スタイルが根付いています。また、厚生労働省の「雇用動向調査」によれば、不動産業・物品賃貸業の離職率は全産業平均を上回る傾向にあり、特に若手人材の定着が課題となっています。
不動産業界の人材育成における効果的な戦略
体系的な人材育成プログラムの構築
– キャリアパスの明確化と段階的なスキル開発
社員が将来のキャリアを見据えて成長できるよう、明確なキャリアパスを提示することが重要です。不動産業界では、例えば「営業職」であれば、基礎知識を習得する1年目から始まり、マネジメント期(6年目以降)まで、具体的な成長ステップを示すことが効果的です。
キャリアパスが明確であれば、社員は自分の将来像を描きやすくなり、モチベーションや業務へのコミットメントが高まります。結果として離職率の低下や長期的な人材定着にもつながるでしょう。
– OJTとOff-JTの効果的な組み合わせ
不動産業界の人材育成においては、実務を通じた学習(OJT)と研修などの場での学習(Off-JT)をバランスよく組み合わせることが重要です。特に実践的なスキルが求められる不動産業では、現場での経験を通じて取引の特性や顧客対応、物件知識などを習得するOJTが中心となります。
一方で、法律知識やマーケティング手法など、体系的な知識習得のためのOff-JTも欠かせません。両者をうまく連携させることで、理論と実践の両面から不動産のプロフェッショナルを育成することができ、変化する市場環境や多様な顧客ニーズに対応できる人材の育成につながります。
デジタルトランスフォーメーションへの対応
不動産業界の課題の一つであるDX対応の遅れを克服するためには、ITリテラシー向上のための教育プログラムの構築が不可欠です。基本的なITスキルからデータ分析、デジタルマーケティングまで、段階的にデジタルスキルを習得できる環境を整えることが重要です。
GMOの「不動産業界のDXに対する実態調査」によれば、デジタルスキルや知識の習得について、55.2%の企業が「個人にまかせている」と述べており、この分野での人材育成に大きな余地があります。成功企業の事例としては、月1回のIT勉強会の開催や、外部専門家を招いたワークショップ、eラーニングシステムの導入などが挙げられます。
ナレッジマネジメントの強化
– 暗黙知の形式知化とノウハウ共有
ベテラン社員の持つ豊富な経験や暗黙知を「見える化」し、組織全体で共有するための仕組みづくりが必要です。積水ハウスでは不動産のプロフェッショナルとして、成長していくために必要な知識取得研修やロールプレイングを中心とした営業スキルアップ研修まで様々なプログラムを実施しており、知識や営業力の平準化を図っています。
– メンター制度と世代間の知識継承
ベテラン社員から若手社員への知識・ノウハウ継承を促進するため、メンター制度の導入が効果的です。不動産業界の特性を踏まえたメンター制度の設計ポイントとしては、営業同行など実務を通じた指導の機会確保、定期的な1on1ミーティングの実施、具体的な指導項目と評価基準の設定などが挙げられます。
成功企業に学ぶ人材育成の実践事例
– 住友不動産の事例
住友不動産では、新入社員に対して1年間の集中研修プログラムを実施しています。基本的な不動産知識の習得から始まり、OJTでの実践、定期的な振り返りと評価のサイクルを通じて、短期間で戦力化することに成功しています。特にロールプレイングを活用した商談力強化トレーニングは、若手社員の早期成長に効果を上げています。
– 東急不動産の事例
東急不動産では、階層別・指名選抜・任意参加など約60種類以上の研修プログラムや、資格取得の費用補助制度等を設けており、従業員が自分のペースで学べる環境を整備しています。また、「DX人材育成プログラム」を全社的に展開し、全従業員のITリテラシー向上に取り組んでいます。
まとめ:不動産業界の課題を克服する人材育成の未来
本記事では、不動産業界の課題、特に人材育成に焦点を当てて解説してきました。テクノロジーの急速な進化や市場環境の変化、世代間ギャップなど、不動産業界は多くの課題に直面していますが、これらを克服するためのカギは効果的な人材育成にあることが明らかになりました。
不動産業界の課題に対応するためには、体系的な人材育成プログラムの構築、デジタルスキルの強化、組織的なナレッジマネジメント、そして先進企業の成功事例から学ぶことが重要です。特に注目すべきは、明確なキャリアパスの提示とOJT・Off-JTのバランスのとれた組み合わせ、そして暗黙知の形式知化とメンター制度による世代間の知識継承です。
不動産業界の人材育成は単なるスキルトレーニングではなく、変化に対応し続けるための「学習する組織文化」の醸成が求められています。トップマネジメントから現場まで、組織全体で人材育成に取り組む姿勢が、これからの不動産業界における競争力の源泉となるでしょう。
変化を恐れず、むしろ変化を成長の機会と捉え、継続的な学習と改善のサイクルを回し続けること——それこそが、不動産業界の課題を乗り越え、未来を切り拓くための最も確かな道筋です。
新入社員の離職防止策についてはこちらをご参考ください。
⇒記事:https://pdca-school.jp/column/2672
- 株式会社PDCAの学校/
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