KDDIの人材育成戦略 – DX時代の取り組み
2025.07.01

KDDIの人材育成の概要と背景
KDDIは「通信とライフデザインの融合」を掲げています。通信事業を基盤にしつつ、多様な分野へ展開しています。金融、エネルギー、コマース、教育などがその例です。この幅広い事業展開と企業成長を支える重要な要素として、同社は人材育成に積極的に取り組んでいます。
日本の通信業界は成熟期を迎え、単なる通信キャリアから生活のあらゆる場面でサービスを提供する企業への変革が求められています。KDDIは従来の枠組みを超えたビジネスモデルの構築と、それを支える人材の育成に力を入れています。
KDDIでは「KDDIフィロソフィ」という行動原則を策定し、企業理念を実現するための価値観と行動指針を明確にしています。同社は「社員一人ひとりが成長し、能力を最大限発揮し、活躍することが、KDDIサービスの向上につながる」という考え方に基づいて人材育成に取り組んでいます。この理念は単なる企業スローガンにとどまらず、具体的な人事制度や研修プログラムとして結実しています。
通信業界ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速により、5G、IoT、AI、クラウドなどの新たな技術やビジネスモデルへの対応が急速に求められています。特に日本企業全体でDX人材の不足が課題となるなか、KDDIもこの変化の波に対応すべく、人材育成の戦略を進化させてきました。
KDDIの具体的な人材育成の取り組み
公開されている情報から確認できるKDDIの主な人材育成の取り組みを詳しく紹介します。これらの施策は個別に機能するだけではありません。施策同士、互いに連携しながら総合的な人材開発システムを形成しています。
1. 多様な人材の活躍を促進するプログラム
KDDIでは「KDDI∞ラボ」というプログラムを通じて、社内外の人材交流を促進しています。このプログラムは特にスタートアップとの協業を通じたイノベーション創出を目指しており、2011年の設立以来、多くのスタートアップ企業を支援してきました。具体的には、スタートアップ企業に対して最大3,000万円の出資や、事業開発支援、グローバル展開支援などを提供し、同時に社員がそうした最先端の企業と接することで、イノベーション思考を養う機会を創出しています。
また、2018年には「KDDI DIGITAL GATE」という施設を設立。この施設では、顧客やパートナー企業とともに新しいビジネスやサービスの共創を行う場を提供しています。また、5GやIoTなどの最新技術を活用したサービス開発に取り組むとともに、アジャイル開発やデザイン思考などの新しい開発手法を社員が実践的に学ぶ環境が整えられています。この施設は単なるショールームではなく、実際のビジネス課題解決のための協業の場として機能しており、社員の実践的なスキル向上に貢献しています。
さらに、社内の異なる部門間での人事交流や、外部企業との人材交流プログラムも実施。多様な視点や経験を持つ人材と協働することで、従来の通信事業の枠を超えた発想力や創造性を育む取り組みが進められています。
2. ダイバーシティ&インクルージョンの推進
KDDIは「KDDIグループ 人権方針」を定め、多様な個性や価値観を持つ人材が活躍できる環境づくりを進めています。女性の活躍推進、障がいのある社員の活躍支援、LGBTQに関する取り組みなど、様々な面から社員の多様性を尊重する施策を展開しています。
特に女性の活躍推進については、2021年度の統合レポートでは「女性経営基幹職200名登用」という具体的な目標を掲げ、女性リーダーの育成に注力していることが報告されています。これに向けて、女性リーダー育成プログラム、ネットワーキングイベントなどを実施し、女性社員のキャリア開発を支援しています。
KDDIでは多様性を受け入れるだけでなく、その価値を最大化するための取り組みにも力を入れています。例えば、異なるバックグラウンドを持つ社員が交流する機会を増やし、多様な視点や考え方を事業に活かす「ダイバーシティ・カフェ」や「アンコンシャス・バイアス研修」などを開催し、組織文化の変革を促進しています。
これらの取り組みは、単に社会的責任を果たすという側面だけでなく、多様な人材の能力を最大限に引き出すことでイノベーションを創出し、企業競争力を高めるという経営戦略の一環としても位置付けられています。
3. 働き方改革と人材育成の連携
KDDIでは「働き方変革」を推進し、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を通じて、社員の生産性と創造性の向上を図っています。テレワークの推進やフレックスタイム制度の活用など、柔軟な働き方を通じて、社員の自律的な成長を促進しています。
コロナ禍を契機に加速したリモートワークの普及に対応し、KDDIではオフィスの在り方も見直しています。従来の固定席による業務遂行から、目的に応じて最適な場所を選べる「活動基点型」の働き方へと移行。これにより、チームの協働やクリエイティブな発想を促す場としてのオフィス活用と、集中作業や自己研鑽のための在宅勤務を組み合わせることで、社員の自律的な成長を支援しています。
特に注目すべきは、KDDIが2017年から進める「KDDI版ジョブ型人事制度」です。この制度では、社員が自律的にキャリアを選択し、専門性を高められるよう、職務内容を明確化した人事制度を導入しています。従来の日本企業に多い年功序列や職能資格制度ではなく、職務の価値と成果に基づく評価・処遇を行うことで、社員の専門性開発とキャリア自律を促しています。
また、自己啓発支援制度やe-ラーニングプラットフォームの充実など、社員が自らのペースとニーズに合わせて学べる環境も整備。特に、デジタルスキルの習得に力を入れており、オンライン学習プラットフォームを通じて、AI、データ分析、クラウドなどの最新技術を学ぶ機会を提供しています。
4. DX人材の育成
KDDIは2022年4月から始まった中期経営戦略(2022-24年度)において、「DX人材の育成」を重要課題として明確に位置づけています。統合レポート2022によれば、全社員のDXリテラシー向上と専門人材の育成に取り組んでおり、DX推進部門の設置や社内DX認定制度の導入などを行っています。
具体的には、「KDDI DX University」というプログラムを通じて、基礎的なデジタルリテラシーから高度な専門知識まで、レベル別・職種別の研修を提供。さらに、実践的なプロジェクト経験を通じてスキルを磨く機会も設けています。
DX人材の育成においては、技術的なスキルだけでなく、ビジネス変革を推進するマインドセットやリーダーシップも重視。そのため、技術者向けのビジネススキル研修や、ビジネス部門向けの技術理解研修など、部門の垣根を越えた学びの機会を提供しています。
また、外部のテクノロジー企業やスタートアップとの協業プロジェクトに社員を積極的に参加させることで、最先端のデジタル技術とビジネスモデルを体験的に学ぶ機会を創出。理論と実践を組み合わせた総合的なDX人材育成を進めています。
5. グローバル人材の育成
KDDIは海外事業の拡大に伴い、グローバルな視点を持ち、異文化環境でも活躍できる人材の育成にも注力しています。2022年の統合レポートでは、グローバル市場での成長戦略の一環として人材育成の重要性が強調されています。
具体的な施策としては、若手社員を対象とした海外派遣プログラムを実施。実際のビジネス現場で異文化コミュニケーションやグローバルビジネスの進め方を学ぶ機会を提供しています。また、オンラインを活用したグローバル人材育成も強化しており、海外拠点との共同プロジェクトやバーチャル交流会などを通じて、物理的な移動を伴わない国際経験の機会も創出しています。
さらに、国内の外国籍社員の活躍推進や、海外の優秀な人材の採用・育成も強化。多様な文化的背景を持つ人材が協働することで、グローバルな視点でのビジネス創出を促しています。
まとめ:KDDIの人材育成から学ぶもの
KDDIの人材育成戦略は、通信業界におけるDXの進展と単なる通信キャリアから生活のあらゆる場面でサービスを提供する企業への変革に対応して、着実に進化しています。特に注目すべき点は、単なるスキルトレーニングにとどまらず、「企業理念に基づく行動指針の浸透」「多様性の尊重」「働き方改革との連携」「DX推進」「グローバル視点の醸成」といった包括的なアプローチを取っていることでしょう。
また、同社の人材育成は事業戦略と明確に連動しており、「通信とライフデザインの融合」という経営ビジョンを実現するための人材像が明確に定義されています。他企業においても、自社の経営戦略と人材育成の方向性を一致させることが、持続的な成長につながる重要なポイントと言えるでしょう。
KDDIの事例から学べることは、変化の激しいデジタル時代において、人材育成は「コスト」ではなく「投資」であるという考え方です。短期的な業績向上だけでなく、中長期的な企業価値向上のために、計画的かつ戦略的に人材に投資する姿勢が、企業の持続的な成長には不可欠といえます。
DX時代の人材育成においては、技術スキルの習得だけでなく、変化に柔軟に対応できる思考力や、異なる専門性を持つ人々と協働できるコミュニケーション能力の育成が重要です。KDDIの事例は、そうした総合的な人材育成の在り方を示す好例といえるでしょう。
DX人材の役割についてはこちらをご参考ください。
⇒記事:https://pdca-school.jp/column/3188
- 株式会社PDCAの学校/
- コラム /
- KDDIの人材育成戦略 – DX時代の取り組み
無料で学べる全4章
Eラーニング「新入社員研修」
ビジネスマナーとホウレンソウなど、ビジネスに必要な知識習得とケーススタディによるスキル習得ができる
- 第一章
- 超実践!ビジネスマナー
- 第二章
- 業務効率向上!ホウレンソウ(報連相)
- 第三章
- 絶対関係構築!コミュニケーション
- 第四章
- クレームをファンに変える!顧客対応
-
CONTACT研修のご相談はこちら
設立以来15年間で延べ
5000社以上110,155名の支援実績 -
RECRUIT採用情報
一人一人の価値を圧倒的に高める
「働きがいを生きがいへ」